L3 能力 9 · AI 活用シリーズ · 第 1 章
介入設計の
壁打ち相手としての AI
目標 SMART 化・指標選定・介入評価・n=1 試験設計の整合性チェック。 Plan フェーズの能力 1〜4 に対する prompt 集と運用上の限界。
- 本記事の prompt 例は 2026-05 時点の主要 LLM の出力傾向に基づきます。LLM バージョン更新で挙動が変わるため、最新版で再検証してください。
- Plan フェーズの 4 能力(目標・指標・介入・実験設計)すべてで、LLM は「壁打ち相手」として使えます。
- 主な失敗モードは sycophancy(おべっか):ユーザーの仮説に賛同しがち。意識的に Devil's advocate 設定で運用する。
- 各 prompt の末尾に
「私の判断の弱点を 3 つ挙げてください」を追加するだけで、結果が大きく変わります。
Plan フェーズ(能力 1〜4:目標・指標・介入・実験設計)は、自分の頭で考えるべき問いの連続です。LLM はその思考を 外部化する補助 として使うのが本来の用途——答えを出させるのではなく、自分が見落としている観点を引き出すために使います。
本記事は能力 1〜4 それぞれに対し、実用的な prompt の骨格を 1 つずつ提示します。すべての prompt は 反証要求を末尾に含む形式で構成しています。これは AI を壁打ちに使う際の最大の失敗モード(sycophancy)への対策です。
§ 1能力 1:目標を SMART 化する
「健康寿命を延ばしたい」「老化を遅らせたい」は、能力 1(目標設定)の出発点としては抽象的すぎます。LLM に SMART(Specific / Measurable / Achievable / Relevant / Time-bound)化を依頼するのは妥当な用途ですが、「Achievable / Relevant」の判断は LLM には難しいため、SMART のうち Specific / Measurable / Time-bound に絞って 質問するのが効果的です。
Prompt 1.1 · 目標 SMART 化(壁打ち版)
私の健康目標:「(自由記述:例えば「健康寿命を延ばしたい」)」
あなたは私の壁打ち相手です。以下を実行してください:
1. この目標を Specific / Measurable / Time-bound の 3 軸で評価してください。
各軸で「曖昧」「部分的に明確」「明確」を判定。
2. 各軸を満たすために、私が答えるべき具体的な問いを 3 つずつ挙げてください。
例:Measurable なら「DunedinPACE / hsCRP / VO2max のどれを指標にするか?」
※私の現状情報は不足しているので、prompt として返してください。
3. この目標が私の年齢・性別・既往歴と無関係に立てられている可能性があります。
私に追加で確認すべき情報を 3 つ挙げてください。
4. 最後に、この目標を立てる前提として、私が見落としている可能性のある
「目標自体の妥当性」への反証を 3 つ挙げてください。
(例:エピジェネティッククロックの介入効果が長期アウトカムを予測しない可能性)
SpecSMART 目標化を LLM で実施したケースの「アウトカムを改善した」エビデンスはありません。本 prompt は思考を整理する足場としての使用に留めます。
§ 2能力 2:バイオマーカー候補を網羅する
目標が定まると、次は「何を測れば達成度がわかるか」(能力 2:指標選択)です。LLM の最大の強みは 候補の網羅——人間が思いつかないバイオマーカーを引き出せます。ただし、その後の絞り込み(「私の予算・時間・認知容量で実行可能か」)は LLM には難しい。
Prompt 2.1 · バイオマーカー候補の網羅(クロック型 vs ターゲット型分類付き)
私の目標:「(§1 で SMART 化した目標)」
あなたは老化バイオマーカーの専門家です。以下を実行してください:
1. この目標の進捗を測るために候補となるバイオマーカーを、以下の 2 分類に
分けて 10 個以上挙げてください:
- クロック型(オドメーター型):DunedinPACE, GrimAge, PhenoAge など
- ターゲット型(直接介入対象):LDL-C, ApoB, HOMA-IR, VO2max, hsCRP など
2. 各バイオマーカーについて、以下を 1 行で記述:
- 測定コスト目安(円)
- 測定頻度の推奨(年 X 回)
- 個人内 CV(変動係数)の目安
- シグナル判定に必要な変化量の目安
3. このリストから「私の目標達成度を最も直接的に示すもの」を 3 つに絞り、
その理由を述べてください。
4. 最後に、このリストで「LLM が捏造した(実在しない)」可能性のある
バイオマーカーがあれば自己点検し、不確かなものは「※要確認」と
明示してください。
§ 3能力 3:介入を 3 軸で評価する
能力 3(介入選択)では、候補となる介入を 効果量・コスト・実行可能性の 3 軸で評価します。LLM はこの 3 軸への分解が得意な一方、効果量の数値については hallucination リスクが大きいため、出典を必須化します。
Prompt 3.1 · 介入候補の 3 軸評価
私の目標:「(§1 の目標)」
私の最優先バイオマーカー:「(§2 で絞った 3 つのうち主軸)」
あなたは健康介入のエビデンス評価者です。以下を実行してください:
1. このバイオマーカーを改善する介入候補を 5〜8 個挙げてください。
ライフスタイル / サプリ / 処方薬 / 先端介入の 4 層から幅広く。
2. 各介入について以下を表形式で記載:
| 介入 | 推定効果量(出典付き)| 月額コスト | 実行可能性(高/中/低)| エビデンス信頼度 |
3. 効果量の数値は必ず一次資料(RCT / メタ解析)を引用してください。
引用できない場合は「※エビデンス不十分」と明示してください。
論文名・著者・年・ジャーナル名・DOI を併記。
4. このリストから「私の予算・時間・認知容量で実行可能なもの」を 3 つに絞り
込んでください。判断材料が不足する場合、私に聞くべき問いを挙げてください。
5. 最後に、私がこのリストにない介入を見落としている可能性 3 つを挙げてください
(例:環境改善、社会的つながり、メンタルヘルス介入)。
Med3 軸評価のフレームワーク自体は 介入選択フレームワーク:エビデンス評価 で詳しく扱っています。本 prompt はそのフレームを LLM に実行させるテンプレートです。
§ 4能力 4:n=1 試験設計の整合性チェック
能力 4(実験設計)では、n=1 試験の 7 要素(仮説・介入・ベースライン・観察期間・測定項目・中止基準・評価基準)の整合性を確認します。Guyatt 1986 [02] が示した n=1 RCT の方法論を、個人の自己実験に応用したフレームです。
Prompt 4.1 · n=1 試験設計の整合性チェック
私の n=1 試験設計:
【仮説】(自由記述:例えば「ベルベリン 500mg × 2/日 で HbA1c が 0.3 ポイント下がる」)
【介入】
【ベースライン期間と回数】
【介入期間】
【測定項目(主要・副次)】
【中止基準(安全性 / 効果不十分)】
【効果判定基準】
あなたは n=1 RCT の方法論専門家(Guyatt 1986 流)です。以下を実行してください:
1. 上記 7 要素の整合性を評価してください。特に:
- 仮説と測定項目の整合(仮説で言及した変数を測定項目に含むか)
- ベースライン期間と CV の整合(CV を踏まえると何ヶ月のベースラインが必要か)
- 介入期間と測定項目の生物学的時定数の整合(HbA1c なら 3 ヶ月必要)
- 中止基準の事前定義度(曖昧な記述があれば指摘)
2. 7 要素のうち、私が記述漏れしている要素があれば指摘してください。
3. この試験設計で「効果ありとした結論」が偽陽性となる可能性のある交絡因子を
5 つ挙げてください(例:季節変動、ストレス、別の介入の混入)。
4. 最後に、この試験を開始する前に医療提供者と相談すべき項目を 3 つ挙げて
ください。
§ 5prompt 共通の限界
4 つの prompt に共通する運用上の限界を整理します。
- sycophancy(おべっか):LLM はユーザーの前提に賛同しがち。各 prompt の末尾に「私の判断の弱点を 3 つ挙げてください」「反証を 3 つ挙げてください」を必ず含める。
- 数値ハルシネーション:効果量・コスト・CV などの数値は引用必須化し、DOI 実在確認を別途行う。
- 個別性の喪失:LLM は「平均的な人」への回答を生成しがち。年齢・性別・既往歴・遺伝多型などの個別情報を prompt に含めると改善するが、プライバシーリスクも増える(#2 データ解釈 で詳述)。
- 会話の長期化による誤解蓄積:同じ会話で複数回 prompt を続けると、LLM は前の出力に整合させようとして誤りが蓄積する。重要な判断は新規セッションで再検証する。
反論・限界
- LLM 出力の再現性:同じ prompt でも LLM のバージョン更新で出力が変わります。本記事の prompt は 2026-05 時点で意図通りに動くことを確認していますが、将来は再検証が必要です。
- 4 つの prompt の組み合わせで PDCA が回るとは限らない:本記事は「prompt 集」であり、それを順に使ったから良い PDCA が回るというエビデンスはありません。各 prompt は思考の足場で、最終判断は読者の責任です。
- Devil's advocate 設定の効果検証不足:「反証要求を末尾に含めると結果が改善する」は本サイト編集者の経験則であり、形式的検証はされていません。詳しくは #3 認知バイアスの可視化。
一次資料
- Ji Z, Lee N, Frieske R, et al. "Survey of Hallucination in Natural Language Generation." ACM Comput Surv 2023; 55(12): 1–38. DOI:
10.1145/3571730 - Guyatt G, Sackett D, Taylor DW, et al. "Determining optimal therapy—randomized trials in individual patients." N Engl J Med 1986; 314: 889–892. DOI:
10.1056/NEJM198604033141406